森の共存者




縄で吊るした丸太を打つ。すでに師匠といた時に10個は体得した。

それでも『ショシン』を思い出す様に、はるかに増えた無数の丸太を『平』で打つ。
拳分の距離を短くする事で、秒速の世界はもっと短く瞬間の空間となった。

それが出来る頃、『一度避け』てから撃つ様になった。
跳んだ丸太は、縄のしなりで素早く返ってきた。同じ様にした別の丸太が後頭部に迫るが、避けて再び撃ち、
目の前に迫ったものを避け、打ち上げた.
ゴムで縛った丸太はもっと複雑な動きをする。顎を反らして避けると、両手で弾いた。



「グワンがmうがくふぁpっガンン!」



突如の音に、そのまま背中から倒れるように避け、向かってきた丸太を蹴り上ると、地に二度手をづいて回転すると、音に向かって構えを取った。


「はhっぁlMflうxはvvyyヴぁ」

相変わらず聞き取れない音。
こちらの世界では妖精、ホビット、ノーム、地精、コボルト、などと言われる背の低い人型の異世界の住人。
元々が『現実』に生きていたチップはどれが正解かは分からない。が、いるものはいると納得した。
それでも、そんな彼らの言語が分かるはずもない。

ただ、いつもの様に木べラで鍋を叩いて、チップを呼ぶ。

「何度言わせるんだよ!『fish』だ!『fish』!!言ってみやがれ!!」
「・ふ・・・リぃ・・・・・・・・・sa・ka・na!!」

返された言葉に、何かよく分からずチップはイラッと頭に怒り記号を描いた。




コイツらは、自分を便利な交友者に思っているらしい。
ほとんど森にいて、気配に鋭いチップは、大型の肉食獣や狩猟以外の邪念を持ったハンターを、『修行の邪魔』
『ムカつく』と一里以内に反応して駆け出し、撃退・退避させる。

ついでに、食料を、特に水に浸かる事を嫌うらしい彼らは、河に入り素早い魚を岸に跳ね飛ばしてくれるチップを、
大変気に入ったらしい。

いくら森を変えても付いてくる。

変えたところで、河近くの食料を手に入れやすい場所はチップだけでなく、彼らの住処にも良く、誰かがいた。
そして噂が広まっているのだか、チップに魚を捕って欲しい時、同じ合図をする。



仕方なく、ブーツを脱ぎ、ヒザ上までズボンを折り曲げると河に入る。

岩と岩の間を流れる水の音全てを聞き、”刻“を悟ると、ハッと息を吸い込み、気配に平を落とし、返して行く。

キラキラと光を施し空を跳んだ後、岸に落ちてくる魚を彼らは聞き取れない音で騒ぎ、鍋へ魚を入れていく。





騒がしさで、魚が近付かなくなった頃、チップは静か『印』を結んだ。

「ガヤgッろパぅ!」

やはり聞き取れない言葉だが、最近それが感謝の“音”だと知った。
そして、チップが数度手を左右に振る行動が『別れ』の意味と知ってから、彼らも同じ様に返して、住居に戻っていく。

「あ・・・、もう・・・」

バシャリと水の中に熱が上がった顔を頭ごと沈める。

“byebye”の行動は、苦手だ。正確にはそんな“友達”みたいな・・・・のが・・・


ブンブンと頭を振り、水を弾き飛ばす。
まだ、陽が色付くには時間がある。
それでも気が抜けてしまって、修行の続きをする気にならなかった。
濡れた足が乾くまでの間に、体を伸ばし筋肉をほぐす。

靴を履くと、森の中へ跳ねて行く。







月が昇る頃、修行場・・・妖精達が勝手に住居を建てた場所を通って帰る。
やはり分からない言葉で、出迎えてくれる。
軽く片手を上げて、間を通り抜ける。
ググッと服が引かれ、振り返ると、高く上げた器を差し出してくる。
中には川魚を煮た何か。それを受け取ると、空いた手に持ち帰ってきた袋を渡す。

それが食料と知っている彼らは再び騒ぎ出す。
そっちに注目が集まっている間に足早に、とっとと静かな場所に行く。

隠れるように樹の裏に座ると、両手を合わしてからその器の中のものをすする。
甘酸っぱいのに後味は川魚独特の臭みと苦味。彼らにはこれが美味しいらしい。
魚の礼を料理として返してくれる彼らの良心を無碍にする気はないし、まともな物を食べれなかった時期もあり、
そんな料理だと理解すると別に困りはしなかった。


綺麗に飲み干すと、再び手を合わせる。

腹も膨れた。雑用をして邪念も晴れた。ならば修行の再開。




次、日が昇るまで半日。

それだけあれば、山を3つ越えた海まで行って帰ってこれる。
音をさせない事、葉を一枚も踏まない事も“縛り”に決める。
ついでに海水を持って帰ってきて塩を作ろう。

少しだけ取り分けておいた果実の入った袋の紐を枝に結びつけた。
走り続け帰ってきた朝の食事。

先ほど渡したもので何か作ったものを分けてくれるかもしれないけども。
少しだけの期待は月に預け、駆けだした。



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資料集でステージの説明でチップが妖精とコンタクト取ってるみたいなのでそんな日常を書いてみようと。『魚』と言われるのがしたかった。基本、なんでも直取り、手作り。山住まい。農耕はしてない。そんなイメージ。某方とネタ被りしたのと誰得なんだと2年半ぐらい置いといたらしい。そんなのが10本近く未だ残ってるんだけどどうしようか…