運命の輪
「今度ドコ!?ドコよ!?」
バッバッバッと左右を凄い速さで見回す。
そこは夜ではない森のようで、危け
「・・・どけよ?」
「ん?」
それ以外の情報を知る前に人の声。
「うわはー!いい感じに馬乗りになって胸モミモミしちゃてる漫画みたいな嬉しい展開!!」
「状況説明セリフ乙」
スコーンとアクセルの後頭部にチップのつま先が刺さった。
「もうね、半日で見付けたヤツ生食いする覚悟だったのにさ、2日歩いてもなんもないの!なんもいないの!
砂ばっかり!最後はさ、足元崩れてゴロンゴロン転がりながらスゲー落ちて蟻地獄?にジャストインよ!」
チップの後ろを付いていきながら、ひとしきり事のあらましを説明する。
それだけではない。
陽気な男が2日も誰とも会えず、やっと会えたのがこの異常体質?の事も知っているチップで、返事も待たず、
ずっとしゃべり続けている。
砂漠のど真ん中に居たはずなのに、よく滑る舌だと思いながら、取りえず聞いておく。
「服脱げ。」
「アラ大胆」
「沈めるぞ?あそこの岩から出てる源泉なら飲める。入ってる間に服洗っといてやる。」
「服乾く間、視姦されるなんて・・・クセになったらどうしてくれんのよ〜」
足払いの後、回し蹴りも食らわされ、無遠慮に温泉に叩き込まれた。
久しぶりの水分に、喉や肌だけでなく、鼻さえも潤う。
少し温めの湯から出ると、タオルを手にしたチップは手振りだけで服をよこせとジェスチャー。
背中を向けて、湯の中で濡れて脱ぎにくくなった服をどうにか剥ぎ、仕方なく渡していく。
最後を渡し終えてから、やっとタオルをくれる。
「代わりの服は持ってくるから待ってろ。」
「はい、は〜い」
チップの影が消えてからやっと縁に腰掛ける。
靴と武器だけは置いていってくれてある。
「これでまた跳んじゃったら、とんだ変態だな・・・」
自嘲のため息には疲労も混ぜて。空元気で乗り越えるには過酷な道のりだった。
「寝てんのか・・・?」
声が掛けられてから、意識がとんでいた事を知る。
「にゃ・・・・大丈夫。」
替えの服を置くと、アクセルの後ろに座り込む。
太ももに置いたままのタオルを取ると、一度濡らし冷えた体を労わるように優しく背中を擦る。
「・・・ココから真っ直ぐ後ろに行った所に居るから・・・終わったら来いよ。」
「・・・うん・・・」
肩越しでちゃんと顔は見えないけど、何かの違和感を感じる。
替えの服は浴衣だった。その送り人は容易に判断がついた。
バスローブほど厚みはなく、膝から下が出て少しスースーするけど、レディーに全裸で会いに行くよりはよっぽどいい。
獣道なのかチップが通ったのか分からない、荒れた山林を10分ほど行くと川の音が聞こえた。
そこに行けばいいのだとドンドンと進む。
一緒に落され湿っているが、靴を残していってくれた理由がよく分かる。
「着いたー」
川に。
「ドコよ、誰よ、何よ、いつよ、何ナノ!?だからヤメてよ、だからドコ〜!?」
両腕を挙げた勝利のポーズで左右を見回すが、誰も居ない。向こう岸にも。
注意深く見回すと、狼煙のような煙が一つあった。
真っ直ぐ進んでいなかったらしい。多分そっちだと見当付けて上流に向かう。
下流から来るアクセルを静かに見つめて、自分の所にたどり着くまで黙って待って。
「そのまま山下りるのかと思ってた。」
「“読め”てんなら迎えに着てよ。」
「真っ直ぐ進まない奴が悪い。」
焚き火を挟んで正面にどっさり座ると靴を脱ぐ。
久々の香りにクル〜ンと腹が鳴る。
「お願い、この焼けた魚をボクに下さい。」
「お前のだ。全部食え。」
2日ぶりの御飯〜と感激の再開を喜ぶ声を無視して、火にかけていた鍋を持って川へ。
「コップはない。これで我慢しろ。」
水の入った鉄鍋を置くついでに、手に持ってたものを差し出す。
疑いなく平を出すと、小さな卵が数個。
「親の方がいいなら狩ってくるぞ?」
「おおおおお〜〜〜〜ありがと〜〜〜〜〜〜天国だ。ココは天国だ!」
「砂漠で野垂れ死んだ方が近道だったな。」
山を降りるのも服が乾くのにも時間がかかり、そこで2人野宿と相成った。
くるりと周りを“読む”と、全力で走って昼にたどり着く距離に居る狼以外危険生物は居ないと、忍者らしいチップの言葉。
今度は何もない逆の安心に、ダラダラと色んな事をアクセルは一方的に話した。
ちゃんと聞いて相槌も打つし、返しもくれる。
でも何かやっぱり違和感。
「ねえ、お願いあるんだ。」
「ん?」
視線を随時流していた瞳がやっと自分の方に向く。
その眼は、拗ねてるような、怒ってるような、困ったような色がある。
「膝枕して。」
「は?」
「もう、人の温もりも女の子も何日も感じてないの!別意味で干からびちゃう!!」
「胸揉んだくせに。」
「のーかんのーかんアレのーかーん」
頬を膨らせて分かりやすい講義。声も入れてため息。
立膝を正座に直して、ポンポンと太ももを叩く。
満面の笑みをすると、いそいそと寄ってきて、その鍛えられているが女性特有の弾力のある温もりへ頭を置くと、ぐりぐりとその感触を頬で耳で手で肩でと堪能する。
しつこさに綺麗な直角チョップが入った。
痛みが治まった後、チップを見上げる形で寝直る。
近くなった視線はやっぱり・・・
「今日、なんか優しいね・・・?」
「・・・・・・・師匠・・・が・・・・してくれた事をしてるだけ・・・」
「大好きだったんだね。」
少し間をおいて、こっくりと頷く。
「それと?」
じっと、視線が合う。
答えより前に質問の意図を探しているチップに少し微笑みながら待つ。
今度はまざまざと分かる。
拗ねて、怒って、困って。
そして・・・
「・・・・なにもないのは辛い・・・」
「うん、辛かったよ。」
転がるとチップの腰を抱きしめる。
両手の置き場を困って、上げたままでアクセルの言葉を待つ。
腹に押し付けられた顔はずっとそのままで、一向に返ってこない声。
寝てしまったのだろうか?それとも・・・?
そっと・・・
抱きしめるように背中へ。
金色の髪を撫ぜる手付きはきっとぎこちない。
それでも。
あの壁がなかったなら
ちゃんと辛いと言えたら
あの時に、誰かがこうしてくれたら・・・
傍にいてくれたら
隣に居られたなら
そうであったなら・・・
その「自分」は今と同じ事を出来ただろうか?
嫉妬に駆られ、後悔に苛立ち、矛盾に悩み。
拗ねて、怒って、困って。
間違ってはいない。
そう信じたい
この暖かさも、重さも、感覚も、心も。
あの癒しと、厳しさも、笑みも、愛しさも。
「女の子の美味しい匂いがする」
細い指から殺意の音が鳴った。
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酒も出して、本番まで行こうかとも思ったけど、そこまでサービスしてやるのも何か悔しいのでギャグ仕様。膝枕を素直にしてもらうにはどうしたら良いかで逆算して行ったらこうなった。野良だから温泉ぐらい見付けてると思う。