コマ
師匠の墓を参ったついでに、昔のねぐらを訪れる。
いつもはその場で道具を作り食事をするが、ここには師匠と使っていた鍋も器もある。
岩と岩の間に隠した木箱を取り出し、雑然となった中を漁って道具を探す。
取っ手を見付けて鍋を引きすり出し、一緒に上がって来た物をひっくり返し木箱にかえす。
こうやって手荒にするから箱の中は“オモチャ箱”状態。
整理する気は全くない。入ればいいのだ。
そのうちの小さな箱の蓋が外れ、中身がバラ撒かれる。
見なかった事にしようと思ったが、師匠の字に慌ててかき集める。
駒一つでもなくなれば出来なくなる。数えながら、底に手を突っ込んで。
全部揃っている事を確認してから、持っていた紐で蓋が開かないようにして、静かに木箱の中へ直す。
火にくべても何の足しもならない木片。
でも、何物にも変えがたい物。
駒を初めて見た時を思い出す・・・
「師匠!コイツって食えるのか!?」
全身泥だらけになってやっと捕まえたモグラを見せ付けるように突き出す。
チラリと視線を上げて『印』付であるのを確認すると、また作業の続きをしだす。
そんな師匠にチップは近くへしゃがみ込むと、また何か作っている手元を覗き見る。
『追いの行』の修行が完了するのは嬉しい。
達成感よりも、やっと師匠の元に帰れる事が。
帰る毎に道具が増えていた。それは全部、師匠が作り出していた。
その中でも日本の道具はとても興味深い。
リスを捕まえた時はその尻尾の毛で“FUDE”を作った。
今作っているモノも、日本の何かだろう。
五角形の木の板に、意味は分からないがKANJIらしき文字を書いている。
黙って。作業が終わるまで、その手元を見る。
やっと筆を置くと視線を上げる。
それに、わちゃわちゃと動くモグラ目の前に出す。
師匠の深い頷きに、弟子は小さく口元をほころばせる。
見つけ出し一直線に帰ってきたのだろう。
服は汚れたまま。爪の中にも土が入っている。白い頭を撫ぜると、パラパラと土が落ちる。
「モグラの捌き方と調理、その後食事だ。」
「すぐ洗ってくるゼ!」
食材にランクアップしたそれを投げ渡すと、察しよく外に走り出ていった。
皮はすぐに剥げた。でも美味くなかった。
師匠が作っていた物は『ショーギ』といった。日本版のチェス、盤遊び。
ルールは簡単。
コマが決まった動きをする。
昇進出来りゃ複雑に動ける。
それの動きを駆使して頭を狩る。
ただ、戦略が大変だった。無限に近い動きの中、相手の動きを読み、先に手を打つ。
だが、それが仇となる事もある。
動かなければ狩られる。
手を思いついては、勝負を挑むが簡単にいなされる。
その後はどうする?
トーリョーか?
相手のミスを願うか?
新たな道に気付けるか・・・
遊びといいながら、戦いや修行に通じる所がある。
「師匠・・・俺が勝ったら、オーショーとギョクショー交換してくれ。」
返事はなく静かに微笑を称えたまま、一気に陣を崩し、攻防を逆転させられる。
チップは舌打ちすると頭を掻き回し、場を見据える。
「・・・ついでに頭を下げ、参ったと言ってやろう。」
「絶対できねぇと思ってるだろう?」
「すぐにでも・・・出来るのではないか?」
盤を持つと180度回し置く。互いの陣を入れ替える。
ただ、嫌がらせのように王将と玉将だけを師匠は交換する。
ムカツく。
が、・・・分かる。
自分の動きが。
澱みない。完璧だ。
それ以上に、対処と突破口を見出したコレは何なのだ?
読み解いた後、一手を。
慎重に打った。
師匠は静かに笑った。
本当に同じ・・・。
良い武器があっても使い手による。
何もかも、師匠に勝ち逃げされたまま。
好きだった煮魚を師匠の墓に供える。
修行怠ることなく、精進し、大統領になる。
だから、また・・・・
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駒?独楽(オモチャ)?孤間?仔摩?何でもいいかとカタカナで。自分で作れる日本的な物ってなんだろう?と考えたら「将棋」だった。
それよりトッ捕まえたモグラって喰えるの?が一番最初の起動時点だった。自分でも軸ズレてると思うよ。嫌いではないが。