スープ
銀の袋から粉末がカップに入れられ、変な機械から湯が注がれる。
親指と人差し指で器用に小さなスプーンでかき混ぜると、それが差し出された。
手元を見詰め続けていたその真ん丸な目が、ゆっくりと顔ごと上げられ、今度は私の顔をじっと見詰めた。
不思議な子だ。
「・・・何んだコレ・・・?薬ならいらねーって言っただろ?」
「スープだ。」
不慣れな手つきで受け取ると、訝しげにカップの中を覗き込み、香りを確かめる。
「・・・仕込んでないだろうな・・・?」
「ない。必要なら私が毒見しようか?」
「毒は体重差で量が決まる。俺の致死量がカップ1杯ならお前じゃたりねぇ。仕込んだヤツなら中和剤ぐらい先にいくらでも飲める。」
それなりの学はあるのかと、自分の十分の一程の体重の青年・チップを見る。
チップが軽い訳ではない。
自身の存在が稀有なのだ。
半トン以上の体重というありえない大男・ポチョムキンを睨みながらカップに口を寄せた。
薬に敏感なこの体は、違和感があればすぐ分かる。
この温度の液体をブチかければ、少し辛いが距離は離せるハズ・・・
「・・・あ・・・・」
少しだけ微笑んだ口元に安心する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・スープだ・・・」
苛立ちと焦りしか見えなかった瞳が、また丸く、見詰めてくる。
この目を知っている。
私のように、異質な存在をただ「大きい」と見る純粋な子供の目。
生死をかける戦場にいながらも、どこか不似合いな理由を見た気がする。
「美味しいか?」
「アンタの国はあんな粉だけで飯が作れるのか?」
諭すようにゆっくりと首を振る。
「コレは携帯食だ。ちゃんと私の国でも鍋に水を炊き、野菜を切り、肉を焼き、料理は作る。」
「糒みたいなもんか・・・」
「ほしい?」
「忍者の携帯保存食。」
気に入ったようで、目はポチョムキンから離さないが、コクコクとカップのスープを飲んでいる。
「はぁ・・・・・・」
小さな安堵の吐息は、気温のせいもあって白く色付いた。
差し出した大きな手にカップを返すと、手を合わせ、日本語のような言葉を唱えた。
「よし。じゃあ、また今度、手合わせしようぜ。」
すっくりと立ち上がると伸びをする。細い体からコキコキと骨の音が聞こえる。
激しく打ち放った拳をまともに受けたとは思えないほど、しっかりしている。
脳震とうを起こし、一時保護をしたが治療も薬も拒んだ。
本当に手負いの獣状態だったが、暖かさで頬に色をさした笑顔に、もうその様子は無い。
「ああ。任務中でなければいくらでも相手しよう。」
「オマエの都合知らねーよ・・・
そり返した体は素早く姿を消し、ほんの少しの頭上で葉音が2度聞こえたが、後は風でかき消されどこへ行ったか分からなかった。
次、現れる時もそうなのだろう。気にはしない。
ただ、手にあるカップの暖かさが未だ残っているのが、少し・・・
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カップスープが日本で開発されたみたいなのだが調べきれず。チップのおかげで日本再認識というか普通の事でも疑問が起こるのが楽しい。考えてる間行動停止するのが難点だけど。保護者ポチョと天真爛漫爆走チプの組み合わせが楽しい。