飛高



任務から帰ってきて早々目に入ったのは、入港場の一部がミサイル1本叩き込まれたような有様。

「・・・一体何事か?」
さすがに報告は向かう前に、現場にいた見張りの兵士に問う。
「は。侵入者がありまして、重銃器を使用いたしまして・・・・」
「そうか・・・」
兵たちの落ち着いた様子から排除し終えている様だ。歩みの遅い自分が、報告を後回しするもの、詮索するのも難儀だ。
それ以上は聞かず、踵を返した。


報告書を軽く目を通した後、軽くポチョムキンに一視を送った。
「うむ。いつもながらきっちり任務遂行できているようだな。」
「はっ。ありがとうございます、大統領。」
キッと、敬礼する。師でもある大統領が敬礼を返す。
「次の任務を下すまで、体を休めるがいい。」
軽く会釈し、彼の体には小さすぎるドアから部屋を出る。ポチョムキンが向いた方向が自室でなく訓練所の方と見ると、
大統領は嬉しそうに笑い、首をすくめた。




訓練所に向かいながら、何かおかしいと気付いていた。
そして、訓練所に続く室内に入り、それを確信した。
「聞きたい。なぜこれほど兵が少ない?」
「侵入者撃退の際の負傷による自主待機とドクターストップの為だと思われます。」

振り返り、ポチョムキン士官と気付くと、ただ一人いた若い兵は敬礼し、的確に報告する。
「入港場でのか?」
「はい。死者は出なかったものの、相当の者が何らかの怪我を負わされまして・・・」
自身も例外ではないようで、新しい治療の後が袖口から見えた。

「ツェップの兵をそこまでとは・・・どこの刺客だ?」
「はあ・・・今、薬物局の人間が調べておりますが・・・・」
顎に当てていた指を外し、視線を兵に戻す。抱いた疑問を察し、先に兵が口を開く。
「銃弾さえ避ける異様な身体能力であったのですが、薬物耐性が低い様で化学兵器が異様に効きまして、
解毒処置も含め尋問をする為か、薬物局が引き取りました・・・」


侵入者は『人』ではない。『敵』である。
自分とて奴隷兵士であった時、『人」と扱われず、首の制御装置には爆弾を仕込まれていた。
『平和国家』となったといっても、昔の体制が全て無くなった訳ではない。
『人』とて扱われない『敵』への尋問は、あまり薦められるべきものはないだろう。

「・・・その事は、大統領は知っているのか?」
「自分には・・・どうにも・・・・・」
「そうだな、すまん。」

気になり、薬物局へ行く道々で兵達から話を聞く毎に、質問を減らし、歩を早める。
単身で乗り込んできた若輩者。異様な素早さ。仕込み刀のような変わった武器。大統領に会いたいと言っていたと・・・

像が浮かび上がってくる。

もし、自分が思う人物であるなら目覚めが悪い。



「本日捕らえた者を渡していただこう。」
扉が開くと共に発せられた声に、調査員たちが止まる。何事かという顔でぎこちなく敬礼をする。
「まだ、調査中でして、それが終わりましたら・・・・」
「御託はいい。大統領への報告も、責任も私が取る。」
大統領の名を出され、渋々調査員の一人が施設の中を案内する。
数個扉を通った後、機械器具が詰め込まれた部屋に付く。ガラスの向こうに、やはり思ってた人物がいる。しかし想像以上におとなしくグッタリしている。
「あのチューブは?」
「中和薬の点滴です。自白剤を使用した所、体調が急変しまして・・・現在は落ち着いておりますが、未だ意識の混濁が。」
「少々部屋ごと貸していただこう。それと、すべての記録装置は停止。調査結果も破棄だ。」


調査員が去った後、重い扉を開く。固定されていた金属の拘束具をはずす。
「人型ギア用の調査部屋とは名誉な事だな?チップ・・・・」
薄く瞳を開けただけで、跪き俯いたまま動かない彼の太ももに染みが出来る。
何かと元を探ると、まるで無垢な子供のようなに溜めることなく泣いている。
「し・・・・しょ・・・・」
「師匠?」
「一人は・・・・やだ・・・・よ・・・・・師匠・・・・・」
頭を抱える。
薬が効きすぎて、秘めたい思いを自白しているのか。
そうでなければ、鎖を解き放った瞬間に襲い掛かってくるほどの野獣が、こんなに殊勝なものか。
演技で騙すほど姦計なことをする性格でもないく、剣技と同じくまっすぐな志(こころざし)の者だ。


長時間話した事はない。
しかし、戦えば言葉以上に知る事が出来る。


そっと、涙に濡れる頬に触れると顔を上げた。
涙を湛える紅色の瞳は虚ろで、また一つ雫となっていく。
自然とため息が出た。
首に噛み付かれようとも、この保護欲は自分でもどうにもならない。

抱き寄せ、背をさする。
反撃も抵抗も無かった。
ただ、しゃくり上げながらしがみ付く手は縋っていた。




点滴を引き抜き“外”に連れ出す。

あぐらをかいた膝の上、赤子のように丸まり、手を握り締め眠っているチップの揺り籠代わりになってやる。
たまにうなされるチップの頭を慰める様になでる。白銀の髪は結構な猫毛でさわり心地はよい。
母や父でなく『師匠』を恋しがるとは、尊敬だけでなく、それほどまでの人物であったのか。
それとも彼の育ってきた環境も特殊であり、そうしなければならなかったのか。


鳥が上空を旋回する。
それを静かに眺め、惰性的に柔らかな髪をなで続ける。
「遠くにあれば優雅にさえ見えるのに、近づいてくれば高速の爪で襲い掛かりる・・・だが、手にあれば美しく整った容姿と
心地よい翼・・・・まるで・・・・」


「隼(はやぶさ)か?」
腕の中からの声に、慌てて見ると、まだ目元を泣き腫らしたままで幼い顔をしているが、チップがしっかりと目を開けている。
動きが早い彼は、次の言葉を待たず、ポチョムキンの膝から立ち上がり、伸びをする。
「・・・・・あれ?ここどこだった・・・?」
周りを見回し、空しかないあさっての方向を数度見る。
振り返って、未だ固まっている大男の顔を見定める。

「・・・ああ、そうか。悪いが、逃げさしてもらうぜ。」
「待て!」
印を組もうとしたチップに力任せに横にあった袋を投げ付ける。
豪速をズッ!と後ろに下がりながら受け止める。
「W・・・hat?・・・・・・・・・俺の武器・・・」
キッと睨んだその目は野獣の視線だが、瞬き一つで穏やかになる。
「アンタに助けられたようだな。」
「なぜ・・・ここに来た?」
「大統領になりたいから。」
「・・・・・・・はあ?」
いつもよりエコーを聞かした声を出してしまい、一気に不機嫌の表情が戻ってくる。
ズイリと近づき鼻先10センチで睨み見つけてくる。
が、一度泳がした目と再び合うと、微塵の威力も無い。

「・・・・・・なんかやりにくい・・・・。何をした?」

「何・・・とは・・・・」
薬物局がしたことより、自分が抱きかかえていた事への、言い訳の言葉が頭で回る。
「・・・・“静(せい)”なんだよ。心が・・・・落ち着いてるよりも・・・・静まってる・・・」
「?泣いたからではないのか?」




「・・・・・泣い・・・・?」

平静を装ってるつもりの癖に、色素の薄い真っ白な頬が段々赤くなっていく。

体制を戻し頭をかく。
「shit!他にバラしてみろ。殺してやるからな。」
口で物騒なこと言いつつ顔は悪戯をするかのごとく、さわやかに皮肉っている。
「生理現象の一つだ。人に語ることでもあるまい。」
「OK。アンタに免じて今日は引くぜ。」

袋から出したブレード付の篭手をつける。後は肩にかけて。

「Thank you」

駆け出したと思うと建物の端からジャンプする。
「ここはチェップの・・・!!」
慌てて見に行くと、空中で体をひるがえし、感謝の印か投げキッスを一つして、雲間に消えていく。

この空中都市に来れたのだ。多分問題ないのだろう。

上空の鳥も、もういない。

腕に残るは、軽い体の温かみと柔らかい髪の感触。


「野生の翼・・・飼われた私には到底、手には入らないだろう・・・・」



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保存タイトルがそう書いてあったのでそのまま。意味合い的なもので読み方は何でもいいみたい?某所から持って帰ってきて、色々手直しして。ここのサイトやる切欠になった小説。3年前の自分に何があって書いたのかさっぱり覚えてない。チップの武器の形容悩んだけど『デュエルディスク』(遊戯王)以外思いつかなかった。仕込める訳ないのに…。忍者刀とは認めたくない。