呪縛




「ねぇえ〜?」
お気軽な声に振り向くと、座り込んだままいつもの人懐っこい笑顔をする。

速さが命のチップは、距離を離してもすぐに届くアクセルの長距離武器が苦手だった。
苦手ゆえに「修行」の一環として、アクセルの顔を見ると挑みかかる。
今日もその一つ。本日は勝利を手にして、場を離れようとした時に見た余裕な笑顔。
「んだよ?」
手を抜かれた気がして少しムカつく、それは声色にも出た。
「もう〜チョット“お相手”してくれないかな~?」
“そういう意味”だと分かっているチップがピクリと反応すると、染まる頬の色をまざまざと見せ付ける。それにクスクス意地悪そうに
アクセルは笑う。

「・・・・お前・・・・恋人・・・いるんだろ?」
目を反らしながら、困らせて逃げる為のセリフを使う。
「うん…」

消沈した声に、アクセルの顔をわざとらしく見ると、笑顔は消える失せていた。
その視線に気付き、再び戻した笑顔は、皮肉る様に。それでも力なく笑う。
「“今”・・・ね、会えると思ったのに、顔も見れずに、また飛ばされて・・・さ。ちょおーっとヘコんでるの。負けちゃったし・・・」

知っている。
アクセルの特異体質も。
軽口をたたく男だが嘘は言わない事も。
そんな状況でもチップの挑戦を受けてくれる誠実さも。

だからこそ、“一言”で反応してしまう。

「おいで」とでも言うように、満面の笑みでアクセルの両手が広げられた。

少し戸惑ったが、腕のブレードを外すとそのまま落とし地に刺す。
恐る恐る、伸ばした手を差し出すと、優しく引いて、深く抱きしめられた。
無理な体勢で落ちたせいで、アクセルの胸に埋まり、完全に体を支えられている。
痛くはないが離しそうにない力。チップは黙ってそのまま待つ。

「・・・女の子だったら物凄く柔らかいんだろうな・・・」
やっと降ってきた言葉に、カンと怒りが芽生える。
「じゃあ、行けよ」


尻軽女でも娼婦でも強姦相手でもお前が囲ってる女にでも。
お前に抱いてもらえる相手の所へ。この好色が。

「違う、違う、違うの、違うのヨ?」
キュウッともう一つ強く抱きしめられ、頭を頬ずりされる。
「チップが女の子だったら、もっと、もっと、もーっと、浮気したいなってさ。」
「やっぱり、本命じゃないんだな。」
口をついで出た言葉に、自分でやってしまったと落胆した。

アクセルの武器は嫌いだが、アクセル自身は嫌いではない。
今まで、隠していたのに。
恋人に会えない事を嘆いた顔に湧いた、嫉妬心が押さえ切れなかったらしい。

冗談めいたやり取りにとってくれれば・・・。動揺を出さないように勤めてみる。

「・・・“今”はまだ・・・ネ。」
真摯な声で。
恋人を裏切らず、自分も傷つけない答えを、勘も頭もいいこの男は瞬時に紡ぐ。
きっとバレた。いや、前から知っていて黙っていてくれたのか。
もしかしたら、最初から?

「でも、“お相手”してネ?」

釘を刺すような笑顔に。確信した。






頭を撫で続けられ、髪は柔らかくゆるりと肌に落ちた。
いつも跳ね上がっている前髪が額に落ちると、思った以上に幼く見えるチップが可愛いと、後で怒るのは分かっていながら、
アクセルは一番最初にそれをする。

大きく開いた襟元から肩に指を滑らせると、下に着込んでいる鎖帷子が、ずれて腕の方に落ちる。ブラ紐みたいだと思うが口にしたら、それこそ女買って来いとキレそうなので、ひそかな楽しみとして勝手に堪能している。

筋肉があっても、線が細いせいか、掌に預かる体は軽く、片方で支えて、片方は肌の上で好きなようにさせてもらう。わざとらしいくキスの音をさせて肌を降りる。
傷つく事は恐れないくせに、痕は修行不足の証だと、あまり好まないのを知っているから、残さないように唇と舌で触れるだけ。


さっきまでコイツと戦ってたんだよな。と、思うと、奇妙な違和感。


それでも、分かった手つきで染まった頬を数度優しくなぜられると、チップは少しだけ困った顔で頷く。

ペタリとアクセルの股の間に座り込み、戸惑いがちに。
既に張ったモノを取り出すと、舌を伸ばす。

奉仕の為ではない。そうしないと自分がツラいから。

色宿でもあれば、ローションでも、シャンプー、リンスでも、石鹸でも。
粘膜への痛みさえ我慢すれば、代わりになるもの物はいくらでもある。
が、たまに会う、定住場所のない二人が、突如となると、コレが一番の手段。
こういう時は女は楽だなと思う。いや、正しい理だからこそ辛くない方法を持っている。

濡らしながら『覚悟』なんてしないのだろう。

と、太さに大きく口を開け、満面なく舌を這わしながら勝手に思う。

いくら望んでも女性には敵わない。



どうにも出来ない無力さに。
ただ、舌を絡め吸い寄せた。



その、口内に含んだ途端、ぐっと、頭が押さえつけられた。
いつもそんな乱暴な事をしないアクセルに喉まで入れ込まれ、混乱と戸惑いで彷徨った手が彼の服を強く掴む。

奥で放たれたが、強い力はまだ離してくれず、苦しさに負けて我慢して飲み込む。

コホリコホリと生理的な咳が出る。
「言え・・・よ・・・ちゃんと・・・してやるだろ・・・」
濡らすのが目的ではあるが、口で良いなら一向に構わない。むしろその方が楽だ。
「ごっめ〜ん。いつもより長かったし、イイなって思ったら、間に合わなかった。」
いつもの余裕面を無視して、飲み込めきれなかった滴りを顎から平に取って嘗め尽くす。



仕草も小さな舌もそうだが、やはり、根本は「可愛い」のだと思う。

自分の股の間、憂いた表情で卑猥な音と小さな声をさせて、口いっぱいに咥え込んでくれていた。
イジめている様な、支配した様な、優越感に近い高揚。
そして確信した可愛い嫉妬。
段々と頬を赤らめ、長めの白い睫毛が舌の動きに合わせてしばたくのに気付いて見惚れていたら、堪らなくなった。


もう一つだけ咳き込んだチップの背中をさする。

「んん、じゃあ、跨って。」
少し潤んだ眼が睨む。それにニッコリ笑って答える。
チップは一方的に抱かれる事を嫌う。だから大体、騎上位。
「攻めた方がいい?」
すぐ疲れて動けなくなった体を振り回したり、体位を変えるだけで高い声をあげてくれはするが、最初っからイヤイヤ言わせるのも
楽しい。


「もう盛ってんのかよ。」
舌打ちして、アクセルの肩を持つと、もたれていた樹に叩き付ける。
脱いだ服は無造作に放すクセに、肌が汚れる事も嫌って、足だけは地に付く事をさせずブーツを再び履き直す。

男のストリップの何が嬉しいのか、笑顔で待ってるアクセルの太ももの上にドカリと座る。
苛立ちを込めて全体重を落としたはずなのに、ニコニコ笑っている。
危うく『死ネ』と首を半回させそうだったが、ギリギリで止まった。

「こうしてくれるとぉ〜ね、安心するんだ。」
入れる前にか?そこまでご気楽主義だったのか?
無視して、乱暴にアクセルのモノをあてがう。

「チップが触ってくれてる間は“跳ばない”から。」
予測不可能の世界。1分後どうなるか分からない現実に望む“明日”。
その恐怖は自分も知っている。だから、せめてジンクスに縋る。
それが、せめて自分なら、裏切りたくない。ジンクスであり続けれられれば・・・

それでも・・・

「入れるぞ。」

誤魔化す為、強引に入れた痛みと久しい快感が声を上げさせた。




―――――自分の方が縋っている―――――



啼いた自分に“いい子いい子”してくれるアクセルの手が安心する。
体なんて、心なんて二の次。
頭を撫ぜてくれる、慰めてくれる、褒めてくれるその手が欲しい。
恋焦がれている。
それが、俺の本命。

「浮気者」

自傷の言葉を、今から愛しく自分を抱いてくれる男へ、いい笑顔と一緒に吐いてやった。




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アオカ(略)女体化する理由と本音ががっちり出たり。まあ、どうでもいいが。AC+のアクセルのEDの一つを使って。女体の方の絵のコメを書いてて、ああそれいいな。と思って書いて3ヶ月放置してたらしい。難波が嫌いなわけじゃないんだ!イトウ家口調でセリフが再生されると「黙れ」になるんだ!金髪もイギリスも鎖鎌も物凄く好きなのに、こう、こうなぁ!!同値にジョニーもいた(過去形)