加護





眠る前に資料整理をしていて、不意に、立ち去らぬ人の気配に気付いた。
動きを探るが、何をするわけでなく、ただいる。不信に扉を開けると、通路に下着姿のチップが座り込んでいた。
何を聞いても首を振るのみ。
たとえ強者のチップであろうとも、女性。
そのままにする事もできず、仕方なく抱き上げて、自分の部屋に連れ入れた。


真夜中の密室に男女二人。
それでも彼女は同志であり、ライバルであり、部下であり。子供に抱く様な庇護欲はあったが、やましい気持ちなど微塵も生まれなかった。
この、無駄に膨らんだ筋肉は人の容姿を超え、『女性と付き合う事』など出来はしないと確信していたから。そんな欲情も、奴隷時代の事もあり、“枯れ果てた”状態だった。


「好きにさせて」


思詰めた様に放心していたが、やっと紡いでくれた言葉。何をかは理解出来できないが、程度の責任は取れるかと、「望むならば」と妥協的な返事をした。
肩に掛かっていた上着を落とすと、そっと伸ばして来たチップの手はゆっくりと肌に触れた。胸筋を降り腹筋へ。そして自分のベルトを外しだした。
予想外で、その手を握り取った。
再度、謝る様に、請いる様、泣く様に「好きにさせて」と呟かれ、力を緩めた。
ありえないと思っていた事を全否定するように、彼女は確実に男の願望を具現化させていく。

「ぁ・・・太いなぁ・・・・」
予想以上で、つい本音が口を告いで出た。
「言っただろう・・・止めておけ。」
自分の股の間で座りこんでいるチップの頭をポチョムキンは優しく撫ぜた。

男性としては情けないが、これ以上は出来れば止めて欲しかった。


少しだけ上目使いの視線と目が合う。
「大丈夫・・・」
小さく呟くと、握りきる事も出来ない太さの“それ”を両手で包み込む。
手が重なっていないのに、まだ先を長く張り出すそこには、小さな舌で舐め始めた。

“恐れ”ている。

それはそうだろう。まだ少し張っただけなのに、その太さ。長さも増してくる。
「させて」と言ったのに、触れるごと、硬くなり反り返り、手の中で倍になっていく。
口を大きく開けても亀頭さえ咥えられず、先を吸うのみ。
自分の吐息に涙声が入っている。分かっていても、止められない。

“怖い”

これで、されるのだ。
優しい彼なら、頼めば無理強いはしないかもしれない。
それでも、抱いて欲しい。無茶苦茶に犯して欲しい。泣き叫んでも最後まで壊して欲しい。
そうされないと・・・『アイツ』が来る・・・


自身では気付いていないのか、その頬に涙が一つ一つ筋を描く。
静かに、頭をなぜてやるが、いつもの強気な面影は全くなく、苦しそうに自分に奉仕する。小さくもないが大きくもない形の良い胸の間に押し付け、指も上下させながら、口内に納めようとするが濡らすだけ。声を出し、舌を出し、それでも歯は当たらぬように。
強要されたかの様に必死に咥え込もうとする。
それ毎にぱたぱたと雫が落ちる。

両頬を包み、口を離させる。
「もういい。」

怯えたように見上げてくる。
目を伏せ、立ち上がると、素早くタンクトップだけの上掛けを脱ぐ。
『口はもう良い、体を寄越せ』そう捉えたのか、下に手をかけようとしたその腕を止める。ビクリと目に見えて体が跳ねた。
「止めなさい。」
ボロボロと落ちる涙と共に、幼子のように口を開けてしゃくり上げる。
「やだぁ・・・もう、いやだ・・・」
崩れるように、抱きついてくる。首にしがみ付く腕が振るえ、押し付けた顔からは泣き声と涙が肌に当たる。




過去にあった事を『悪夢』で見たのらしい。

が、麻薬中毒に陥っていた時の事で、本当にあった事なのか、錯乱して何かと混ざっているのか、ただの架空の妄想なのか分かりはしないのだと。故にそれは恐怖で。

その恐怖から逃げ出して目覚めれば、夢の内容はまったく覚えていない。何であったか分からないのに、ただ密室に一人でいるのが怖かった。
逃げた。が、逃げても『アイツ』に追いつかれるのが怖くて、この空中都市で唯一部屋が分かるポチョムキンの近くに来た。
でも、助けを求めても、既に寝てしまって返事がない事を思うと、その声で見付かるかもしれない、追いつかれるかも知れない。扉が開いても『アイツ』が待ち伏せしてるのではないかと思うと、ただ怖くて、見付からない様に声を殺し、身を縮めて、うずくまっていたと。

扉が開く音。恐怖が脳を支配する。
それでも見た顔は助けを求めた人で、独特の優しい声に全てを明け渡したかった。が。

『本当に信じていいの?』
海馬の奥で『アイツ』聲が響く。
『そうやって君は、“アレ”をされたのだろう?』

気遣いの言葉毎に『アイツ』の聲が重なり鳴る。
『安心させてから絶望の調味料付けると美味しいんだ。』


『アイツ』の聲が聞きたくなくて、頭を振る。
大きな腕が自分を包み、持ち上げた。
『手早く貪られるんも刺激的だよね?』
犯され泣き疲れれば混沌だけで今夜はもう『アイツ』は来ない。



しかし、彼は今まで会った誰より紳士的だった。
冷たくなっていた肌に上着をかけて、飲み物を出してくれ、『罠だよ』と『アイツ』の聲が響く中、彼の声は優しく、その目は静かに自分を見守ってくれた。

この人がいい。

お願い。
「好きにさせて」。
最後だけは決めさせて。
なのに。「止めなさい。」と。
「やだぁ・・・もう、いやだ・・・」
アナタに壊して欲しいの。
『アイツ』が来る前に。
アナタを選ばせて。
最後にして。
コロシテ。

現実と心と不安が、ゴチャゴチャになった頭の中の全てを吐き出して、ただ泣くチップ。

彼女が言う『悪夢』は本当にあった事なのだろう。
いや、もっと、中毒症のせいだと置き換えなければいけない程、凄まじい事をされている。真っ白の肌が、泣いて熱を持ち、酷い傷跡を浮かび上げて、それを告げる。
戦闘や虐待、拷問の類ではなく、欲望と快楽で弄られた痕。
それをした者たちが一つになったモノが『アイツ』。
体を、心を、言葉で、夢で、恐怖で嬲り、今も離れず蝕み続ける『欲望』


より、小さく見えるその体を抱きしめた。
「壊すものか・・・」
愛しさをこんなにも感じる者を。

それでも、初めて抱きしめた女性の体は、言葉とは裏腹にとても柔らかく儚げだった。
「・・・して」
腕の中の悲痛な呟きに、顔を見た。ただ溢れる涙を落とし続ける。
「・・・もう・・・・・・・・・・たすけて・・・」

糸が切れた。

これ以上悪夢に置き去りにしたくない。
救えないのなら望むモノを与えよう。

細い体へ無理に己を串刺す。酷い泣き叫びの声はそれでも自分を求めてくれた。
それ毎に体を貫き、涙と悲鳴は増すばかり。今の自分は『アイツ』と同じかもしれない。

失いたくない。
傷つけたくない。
微笑んでいて欲しい。

それでも、力をなくした体は思うまま踊り、全てを散らせていった・・・・・





「・・・・・ヒドい・・・・・・」
疲労の中からの最初の小さな一言の衝撃を受ける。
「すまない。」
謝る事しかできず、胸に寄り添うチップの、完全に落ちきった髪を撫ぜる。
「女性は・・・・・・初めてで・・・悪かった・・・もうしない。」
トントンと胸に刺激を受け、見下ろすと、終始泣いて腫れた真ん丸な紅い眼が見つめる。
「・・・俺が初めて?」
瞼を伏せたポチョムキンは眉間に深く皺を寄せる。
「・・・・そうだ。」
ぴっとりと寄ってきたチップを見ると耳まで赤い。

「・・・動いて・・・」
「ん、んん?」
真っ赤になった顔を上げると肩に手をかけ、腕の力だけで、同じ位置に顔を持ってくる。
「もっと・・・・・・・・奥から先まで・・・して。」
『ヒドい』の意味が『足りない』と分かり、ポチョムキンは言い澱む。
いつもと今と全く違う高い声で、悲痛に泣かれれば拷問している様で、自分のモノが彼女を内から引き裂き、潰しているのではないかと思うと、心配で、下手なことは出来なかった。

小さな唇が軽く触れた。
「・・・・・・・ね?」
愛の囁きより、微かな願い。

救い出した姫君の微笑は、美しくで、艶やかで、そしていて淫らで。
初めて沸いた愛しさに、息が止まりそうだった。


その想いは止められず、再び、肌の全てに触れ、自分の色に染め切る。
既に自ら動く事も出来ないチップの体は、ポチョムキンの平の上で微笑を絶やす事なく、自分の腕にも等しい太さと長さを受け入れて、上品に喘ぐ。
求めに応え、攻めて啼かせて、願う通りに何度も吐き出した頃には明け方。



大統領の護衛着手時間が近付き、短い睡眠を取ったポチョムキンは、未だ自分の腕の中にいる、同じ任に付くチップを揺り起こす。
甘い吐息と一緒に開いた瞳が、ゆっくりと見つめる。勤務事項を口頭で確認すると、小さくクスリと笑ったチップは、ポチョムキンの頬に触れ、寄せると、口づけた。

「いってらっしゃい。」
確かな口調だが瞬き毎、瞳は伏せられていく。

抱き上げた体は腕の中で、くったりと落ちる。
休むというよりかは動けないのだと理解すると、今度はポチョムキンからチップの額へ贈る。
「ここを出る時は、ちゃんと服を着て出て行くのだぞ?」


言った後に自分の物ではより卑猥になると、チップの部屋に服を取りに行き、時間ギリギリになった焦りは、初めて知った感覚にも翻弄されながら、着任時間最後まで続いた。

それでも、任務から自室に戻ってきて、同じ様な微笑で「おかえり」と言われてしまうと。
抱きしめるための腕を誰が止めれるであろうか。










▼side.opposite




優しく抱きしめられても、その存在は恐怖だった。
「壊すものか・・・」
『嘘だって分かってるでしょ』頭の奥で『アイツ』の聲がする。


「・・・・・・して」
コロシテ。『アイツ』の聲に怯える自分を。
「・・・・・・もう」
アナタだけが触れて。
アナタだけが見えるように。
誰のモノにもならなくてもいい様に。


「・・・・たすけて」



ミチミチと肉が広がる音が骨を伝って聞こえてくる気がした。
太ももに触れる手は大きく足を開かせているが、それ以上に足を上げ、まだ先の半分しか入っていないその太さを迎えようと足掻いてみる。
勢いで押し込まれれば、裂けた痛みで、朦朧となった脳と血が潤滑油となり、混沌の中で終わるかもしれない。

『壊さない』と言った言葉通り、半刻かけ、ゆっくり押し広げながら入り込んでくるモノは激痛ではなく脳を直接触られるような、甘い破壊の痺れ。
「はあぁ!!」
張り出した一番太い所が入り口の一番狭い所を抜けた音が、自分の声で壊れかかった耳にも聞こえた。
後は、堕落的に最奥までと望んだ。
濡れたそこは入りやすかったが、生殖器官だけでなく、消化器官も押し上げてか、嘔吐感に襲われた。
慰めるように、癒すように、見つめる視線は優しく、その手は、容量の超え形を変えた腹をさすって、待ってくれている。

それでも、痛みと異物感に耐えて、求めた声は自分でも悲鳴にしか聞こえなかった。
そんな我儘に、困った顔をする。
我慢はするなと、釘を刺してから、体を気遣いながら、応えてくれる。
感謝の言葉はタダの卑猥な音でしかなく、内臓を掻き出される様な勢いに叫び続ける。


望んで望んで望んだ後、強い奥への圧迫に高く声を鳴らす。
が、熱い迸りは来なかった。

覚悟で閉じた瞳を開ける。
心配そうに見つめる瞳は欲望に染まっていない。

「辛かったな・・・」

『聲』が聞こえない。
アナタだけの声が分かる。

「・・・怖かった・・・」

そんな一言がやっと出た。



蹴り、捨てられ、縄は肉を絞め、埋め込まれる男の腕、喉に放たれ、腫れた目は開かない、笑い声、硬い拳、抑え込まれ、外れた骨は意識を覚醒する痛み、クスリを打たれて、頬を張り、開いた穴には血と白濁、髪を鷲掴む、前も後ろも、針で穴を開けられ、肌は直線の鮮血を垂れ、怒号、2本も3本も、笑いながら、乳房を下からナイフで、叫ぶ声はただ喜ばせて、ピアスを引き抜かれ、放っては笑い、欠けた歯は血の味を濃くし、半日近く遊ばれ続けた、耳に出され・・・

絶望の言葉が、優しく自分に救いを与えてくれた『男』の『聲』で響く。

どれが本当なのか分からない。
やめてという願いを嘲笑う『聲』
押さえつけてくる『掌(アイツ)』。
それだけがいつも同じ。



内臓を圧迫するそれを見ると、腿の半分近い太さ。
触れる手は腰を一巻きするほど広く大きい。
彼がこのまま体重を落とせば、この体を砕くほどの筋肉の巨体。

全てが出来るのに、全てしなかった。

「辛かったな・・・」
うん。
「・・・怖かった・・・」
とっても。

最奥から離れようとした行動を、首元にしがみ付いて止める。


同じ事をされているのに、声も微笑みも手も怖くないから。
そして初めて芽生えた渇望。
ポチョムキンの頬に両手を添えると、優しい視線が静かに言葉を待ってくれる。

耳に鼓動が聞こえる。
頬に熱を感じる。この自分がこんなに殊勝なところがあるとは思わなかった。

「今・・・触ってる所に・・・・ください・・・」

女性のような声だけが出せた。

深く抱きしめられた。

表皮を、粘膜を、眼球を、体内を焼き尽くす恐れた熱。

でも、この人のモノなら大丈夫。おかしな確信だけがあった。
そして思った通り、それはただ暖かく自分を満たし尽した。





「・・・・・ヒドい・・・・・・」
困らせる為に呟く。
「すまない。」
素直に謝ってきた声と一緒に子供のように頭を撫ぜてくれる。
「女性は・・・・・初めてで・・・
思わぬセリフに、厚い胸板を指で叩くと、抱きすくめた腕を緩め、視線を自分に下ろす。
「・・・俺が初めて?」
あんなにも優しく抱いてくれたのは女の扱いが分かっていたからじゃなく、初めてだったから?
「・・・・そうだ。」
困った様な、恥じた様な、険しい表情でポチョムキンは目を瞑り呟く。
この人の“最初”になれたのだ。まるで自分が初めて抱かれた様に自然と熱が上がってしまう。

だからなのだ。気遣いすぎて。
「・・・動いて・・・」
本音を言ってみる。
「ん、んん?」
逞しい肩に手をかると、腕力だけで、腕の中をすべり、顔を近寄せる。
「もっと・・・・・・・・奥から先まで・・・して。」
内で感じたかった。そして、その喜びを伝えたい。
女性からのそんな言葉嫌ってか、ポチョムキンは黙っている。

唇を軽く触れさせる。
「まだ寝かせないでね?」


今夜『悪夢』はもう見ないだろう。
いいや。これから先『アイツ』はこの人の傍にいる限り出てこない。

でも、この胸の高鳴りでは眠れない。
だから。

やっとしてくれた自然な笑顔に、ポチョムキンは躊躇う事無く抱きしめた。


疲れた細い体は、簡単に彼が思うよう、シーツの上で美しい曲線部を描いた。
やはり挿入時には、苦しそうに耐えているが、そこを通れば、少し潤んだ瞳が優しく微笑む。先ほどの名残もあってか、“裂いている”様だったキツさは弱まり、滑らかに触れる。
望みどおり、動き、出し入れする。決して先は抜かないようにギリギリまで引くと最奥まで一気に味わう。
あれほど泣き叫んでいたのが嘘のように、今は甘い声の中、自分の名を呼ぶ。
それ毎に頭をなぜると、「アリガトウ」と、でも、もっと。と、せがむ。

抑えられない感情を知って、そう告げる責任を、体へ返す。
最後は、いや最後にしたくない想いを、彼女の中へと満たした。


大きな手と名を呼ばれて起こされた。
視界が通ったが、まだ少し霞が掛かった脳で、何事かと声を聞く。
任務にも忠実なポチョムキンは、本日の予定を時間まできっちりと伝えてくれた。
自然と笑いが起きる。

この国より、大統領より、任務より。
激しく愛してくれたのに、受け止められたのに、まだ内に感じるのに、終わらせろと?

「いってらっしゃい。」
疲労に任せ、そのまま眠りに落ちた。
額に柔らかい感触が来たが覚醒できず、ただ、今度は迎える言葉を思い出していた。




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長い…どれだけ誤字あるんだろう?「side.opposite」反対側の意味で。私の書く文は小説でないです。漫画のコマを文字で書いてるだけなので、視点や心理描写、一人称が切り替わりするので、なんか分からない気がしたので逆を書いてみた。それで分かるのかといわれたら分からない。ポチョさんはチップを人形みたいにずっと片手で抱っこしてりゃいいと思う。理想。