ピアス
ひと対戦後、やっと闇慈はその違和感に気付いた。
「お前さん、耳飾りの片方、ないゼ?」
明らかにチップは顔色が変わり、耳を両手で挟むと、そのまま左右を見渡す。
「いや、俺と会う前からなかった気がする。」
「あぁああああ・・・jesus・・・・・」
負けた訳ではないのにガックリと膝を落とした。
「そんなに大切なものだったのか?」
「のー」
その落ち込み方にしては物凄く軽い返しで、吐き出した呼吸と共に“ま゛”とよく分からない音が出た。
反応して睨んでくるが、それはただ単にご機嫌斜めの視線。
「揃いの片方、無くなったらヘコむだろう?」
確かに、使えるのに靴や箸の片方が駄目になると、必然的に両方代える事になるのは少し心苦しい。
お気に入りなら尚だ。
残った片方を外すと、ゴソゴソ袂を探り、赤系統だが色合いがバラバラのピアスを3つ取り出した。
動きが早い彼は、移動してきた広範囲のどこに落ちとしたか分からぬ物を、いつか見つけるかもしれないと大切に持ているのか?
いや。ただ単に合理的なのかもしれない。
外したばかりの一つと、掌に乗るそれを数度見定めしているチップの頭に、扇を手放す。
それなりの大きさの重さが落ちてきて、体ごと上下したが、素早い反応で、平から跳ねた耳飾りのどれをも落とす事無く握り込んだ。
「o・・・・uch.テメェ・・・・ついでに殺スぞ・・・・」
自分に視線を向けさせる為にしたのに、最も痛いと言われる体の中心線へ角がゴッツリ刺さったらしいチップは、グーでそこを必死に
押さえながら睨み返す。
無論涙目涙声。
「手合わせの相手無視するからだけど、“入る”と思わなかった。本気で御免。」
それは本当。
拳と髪の間に手を差し込み、慰めるよう小刻みに撫ぜてやる。
痛みに耐えている喉が、猫のようにグルグル鳴っている。
「新しいの、俺が買ってやるから許してくれネ?」
頭痛を抑えるように両側から頭を抱え込んでいるチップの頭の真ん中を撫ぜながら、痛みが治まれば怒るのは分かっているので、
先に本来目的を言う。
「・・・・・許さねぇ。」
本気で痛かったらしい。
やっちゃったな。の、ため息は大きく落胆の声も含んだ。
それでも、もうひと暴れすれば気が済むだろう。
「赤いヤツがいいのか?」
「大きめの丸いヤツ」
小さい方が引っかかったりしないだろうに。
こだわり・・・・?
イヤ、もっと単純。
「“師匠”が初めて買ってくれたとか、似合うとか言ってくれたのかい?」
驚きに見上げてきた顔で、なんとなく、そう言ったお師匠さんの心が分かった。
「お前さんの真ん丸な目とそっくりってか?」
「・・・・・・なんで・・・」
大当たり。
真っ赤になっていくチップに、頭を撫ぜていた手は自然と愛情を込めてしまう。
「ほい。立てよ、勝負の続きをしようぜ?お前さんが勝ったら、ちょっと高めのヤツ買ってやるからよ?」
「お前が勝ったら?」
自分が買ったアクセサリーを付けてやれる、身に着けてくれる。
これ以上の見返りなど欲していなかったのに。それでも。
「俺好みの可愛い耳飾りでも、付けてもらおっかな?」
諺とはよくできた哲学で。
『口は災いの元』
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デストロイ。イラスト見てて、目とピアスの大きさが同じだな…と。ついでに女性陣のピアス率がゼロと言うのに驚いた。イノぐらいしてると思ってたから…師匠に貰ったピアスは、一回落として、必死に見付けてからは付けずに直しこんでる。