Goldfish



「んん〜ドコだろうね?」

相変わらず、跳ばされたアクセルは周りを見回す。
慣れたというのはイヤだが、状況把握をする方法は大体同じ。

風景や建物、獣はイキナリ襲ってこないから、まずは視界に入る人間観察。
肌色や髪の色。服装。自分を見ての反応。

人が見当たらなかったら、風景。建物や明かりがあったら人間社会。
ないなら植物で熱帯地域かどうか確認。恐竜時代はさすがに怖いから。

本日は、蒸し暑い場所。ちょっと夕方ぐらいの、木が生い茂っただけの山奥らしい。
とりあえず、斜面にそって下りだす。川を見付けるか、妥協的に平地に降りれればいいなと思う。

少し下っていくと、道があった。
人間が作った、しっかりとしたもの。人影がない事を確認して、その道を降りていく。

聞こえてきたのは電子音。19世紀以上後だ。
人間観察は、互いの安全への第一項目。
慎重に進むと、人口の光の中、濃い色の髪が見えた。顔の特徴からもアジア圏か?
隠れながら、観察すると文字を発見した。これも結構な状況把握の材料。
英数字も見られるが、主に目を引くのは漢字。

漢字だけだと中国・中華街が濃厚だが、特有の文字が間に挟まっている。
着物を着ている女性を見て確信した。日本だ。それでも、着物より洋服率が高い。
第二次世界大戦後1950年から、携帯電話は普及して様子から2000年あたり。


『もっとも平和な時代』ではあるが、警戒しつつゆっくりと、その明かりの中へ行った。

石畳を中心に簡易式の店が並んで、奥には日本特有の建物がある。
推理年数は比較的当たりで、外人の自分に振り向く者はいるが、喧嘩を売る者はいない。
とりあえず、詳しく日にちが分かるもの、手っ取り早く誰かが読んでる新聞を・・・


「?」
振り返った先で目にとまった、原色の魚。
“ikezukuri”と言ったか?魚を生きたまま食べるらしいゲテ料理。
子供でも食べるらしく、嬉しそうに生簀を覗き込んで魚を皿に入れている。

「・・・美味しいの(delicious)?」

半信半疑で出店の主人らしき人に声をかけてみる。一瞬で笑顔が消えた。
この時代の日本は、英語の普及率が低いのは分かっているから、単語か動詞で身振りを付けて一つ一つ聞く。

「魚(fish)、美味しいの(delicious)?」

生簀を指差す。
ポカンとしていた主人が慌てて、手を振り、「のー」「のー」繰り返す。

マズいのに売ってるの?

怪訝な顔をした外人に、主人は、思いつく単語と手振りで何かを伝えてくる。
聞き取り辛い音を読み取り、連想ゲームで思いつく単語を言っている中「ペット(pet)」という言葉に、主人はやっと
「いえす!」と笑った。
ハナから魚を飼うなんて事が頭がなかったから、物凄い遠回りした気がする。
知りたいのはそんな事じゃないんだ。もっと簡単な事。


「名前は(name)?」
「ねーむ・・・?キンギョ!」

どっかで聞いた単語だ。最近?
いや俺の時間間隔だから、どの時代だったっか?




『この前の金魚・・・ありがとう・・・』





「・・・ああ・・・“金魚”って・・・・これの事だったんだ・・・・」


少し考え込んでから、ポケットを探る。生憎、日本のはなかったが、この時代には発行されている硬貨があった。
未来の金は使えないが、過去の金は出しても捕まらない。

それを主人に見せて、指差しながらキンギョが欲しい事を説明する。
すると丸い板をくれた。「さーびす」と笑う。いや魚が欲しいんだって。

同じ様に丸い板を持った主人は生簀へそれを入れた。
手首を返すとその板の上に、金魚がいた。皿へ入れると、次は俺だと示す。

つまり、飯と同じで皿に入れたら自分のものになるのネ?

破れて分かった。この板の正体は紙だった。穴の開いた板を見て苦悶するアクセルの腕が叩かれた。
見ると、隣にいたお子様が何か言っているが早口で聞き取れなかった。
それでも、取り方を教えてくれてるらしい。半分穴の開いた板で、器用にキンギョを取って見せてくれる。

自分の板はそれよりも穴は小さい。頑張ればいけるかもしれない。
さっきは欲張って派手な黒いのを狙ったからダメだったのかもしれない。今度は小さく紅いヤツ。

「しゃー!!」
空の皿にぺチリと入れられた金魚を見て、主人は水を継ぎ足した。

次は、
はしゃぎすぎて、即終了。


主人は陽気な外人に何か言ってくれているが、日本語羅列で分からない。
ただ、金魚が2匹入った袋を差し出した。
「さーびす」と「ぷれぜんと」が分かって、笑顔と礼を返した。
まだ器用に金魚をすくっているお子様にも聞き取れるようにゆっくりと「Thank you」と声をかけた。




もう少し、その店通りを見ようかと思ったが、すぐにやめて、降りてきた山道を再びに上り出す。
予知のように都合よく、この特異体質は使えないけど、些細な切欠は確信をくれる。

多分、すぐに“跳ぶ”。

この後、御礼は次に会った時に言ってと訳の分からない約束を取り付けなければいけない。
それを律儀に守ってくれるあの子に。
「喜んでくれるんだね、キンギョちゃん。」



感謝のキスは生臭かった。



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時期的に夏祭り。金魚を巡って、日本の当たり前に対する外人のオカシな行動・ギャップというものを書いてみようと思ったが、書き表せてるかは分からない。ついでにチプを(笑)金魚のお土産は1回だけにしないと色々バットED・・・