気ままな旅という訳ではないが、完全な逃亡生活でもない。

知りたい事がある。
その為には、人から人に話を聞き、昔の書物を探る。
そうなると、自然と一箇所に留まる事無く、様々な土地に行く。


闇慈は、街道を外れ、獣道を進むと大樹の前で立ち止まる。
扇を取り出すと、差ほど強くない力で二度はたく。
朝から歩き通しに、小さくため息をついて、その根元に座り込んだ。

はたはたと体を仰ぎ、熱が収まりかけた頃、ざっと目の前に人影が落ちてきた。

「よお。やっぱりココらにいたか。」

と、言っても現れるまでの時間を考えると、多分10キロは離れていただろうが。
あの音だけで、短時間にここまで来るこんな時は、チップが“忍者”なのだと自覚する。


「なんだよ?」

まだ、顔見知り以上にはなれていないが、喧嘩を売って来なくなったのは、大分話が早く出来て楽になった。

「土産やろうと思ってな。」
首を傾げたが、黙って待っている様なので、荷物の中を探る。
「ほい。」
拳を握った手を差し出すと、素直に伸ばしてきた平に置いてやる。

「・・・?水晶?」
「お前さんにそんなモンやってどうするよ?ビー玉だよ。」
「ビーダマ?」

不思議そうに薄水色の玉を指でつまみ、上下左右回して見た後、中を覗く。
そのまま光に透かさせるように、目に近づけたまま天を仰ぐ。
街で最初にこれを見せた子供と同じ反応をしていて、思わず吹きそうだったが堪える。

「何?」
「“日本”の玩具。ビードロの玉とか、B級の玉とかの意味らしい。玉同士ぶつけて遊んだりするんだが、
一つしかないから、ただの土産。」
日本で作られた物ではないかもしれないが、日本に憧れを持つチップには、そんな話も土産の一つ。

「・・・いいな。」

「は?」
想像していた答えとは全く違う言葉で思わず破願した。

それに気付かず、チップは未だにビー玉の中を覗いている。
「何度かこれとよく似たヤツ見た事あったけど、日本のモンだと思わなかった・・・」

視線を闇慈に戻すと、ニッコリと笑った。
「知ってるって、いいな。」


多分これが本来の性格なのだろう。


喜びに似にたモノで、思わず笑い返した。
「よ・・・喜んでもらえて・・・良かったよ。」
本当に。声が裏返らなくて。

「貰っていいのか?」
「土産だし。」
Thanks.と軽い言葉の後、大事そうに小さなガラス玉を仕舞い込んだ。


「“日本”の事・・・教えてやろうか・・・?」
間違ったり、偏ってる知識を否定すると怒りそうなので、今まで留めていた。

が、知って欲しくなった。
自分の覚えているモノを。
見て来たモノを。
俺という男を。


そして知りたくなった。



紅い瞳がじっと長い事見つめた後、こくりと頷いた。


気ままな旅という訳ではないが、完全な逃亡生活でもない。
それでも、恋に落ちたその日、俺は「帰る場所」を知った。



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闇慈分補給。「日本語お教えて〜」のなんか。餌付け状態で皆がチップに日本モノあげてりゃ(略)しかしながら、チプ受となると闇がメジャー?なのにね。ハマって来たものが殆どマイナーだから自分的には諦めてはいるんだが。