心執




それが目の前にいた。


この時代は、「法力」で異世界との扉が開きやすくなっているせいか、自分の戦闘力以上のモノを呼んでしまい術者が殺され、ココの世界に残ったのか、原因はともかく、変な生物がたまにいる。
自分の機嫌を損ねない存在なら放置。
ソルはそうして生きて来た。


弱らせてから喰うつもりなのか、苗床にするつもりなのか、捕まっているのが人間でも、どうでもよかった。


だが、見慣れた武器に人物を知る。
周りに籠や斧など明かに彼のではない物が散らばっているとなれば、大体の予想はつく。

普通の人間なら足止めの生贄にされたという事もあるかもしれないが、ヤツを、誰よりも速いチップをそんなものに出来るか。
『誰かを助ける為自ら飛び込んで行った』のだろう。
気まぐれか、咄嗟かはともかく、お人良しな事だ。

今日昨日でない戦闘の跡。
未知の生物から守ってくれた救世主を、助けに戻ることもしない人間に少し苛立ちを覚えた。
「・・・・見捨てる気だったのは同じか・・・」
呟く様に毒付くと、タバコを吐き捨てた。


足元に炎が渦巻いた。




清水で体表面の粘液を洗い流し、処置の手がかりを探る。
一番腫れている所を触れると、爆ぜて、チップは大きく声を上げた。
痛々しく開いた傷跡から同じ様な粘液と膿。
膿むという事は、人の免疫機能で毒性を消せるという事である。
ならば、その毒素をそれ以上吸収しないよう、体内から吐き出させれば自然治癒する。血液が流れれば内から毒素を押し出し、傷も塞がる。

動かない事をいい事に、その傷を血が出るまで吸い上げた。激痛に再び高い声。意識が戻りつつあるのだと安心したが、今から傷口一つ一つに同じ事をすると考えると、少し可哀そうにも思えた。



いまだグッタリするチップの体を抱き上げ、再び川の中心に行く。
口と鼻を押さえ、ドップリと水に沈める。垂れていた血が流れ、新たに薄い赤が膜の様に肌を染める。
岸に戻る際、ソル自身も口を濯ぎ、毒素を薄める。
最初の、死肉を解体したような無残な場所とは離れた所に行くと、ゆっくりと下ろし、今度は背中の傷を中心に
唇を寄せた。





薄く目を開け、見えた色に呼吸も忘れてじっと魅入る。火だと見定めても脳はそれ以上動かない。
体は昔を再現するように感覚もない。

変な炎だった。墓を土台ごと燃やしてるようなオカシな形状。
それが、倒木に刺さった封炎剣だと、少しづつ理解して、その持ち主を思い出して一気に体を跳ね上げた。
「があぁぁぁ!!」
驚いたのはソルだった。考え事をしていたのに、いきなり死人が叫んだのだ。
再び地に伏っし、涙を流しているその頬を触れる。
「大人しくしていろ。」


やはり思った人物の声だったが、いつもの荒々しさはなく、炎の暖かさを放っている。
全身に激痛が走る。止め処ない涙の塩分さえ鋭くて、瞼を強く閉ざす。
「・・・話せるか?」
派手な呼吸音の後、掠れた一音。

「Yes」「No」の簡単な問診を終え、処置が適切であると知るとそっとチップの体を撫で上げる。
傷の一部がまだ血糊を引き、無残な白い肌に、ソルの掌に赤い帯を描いた。



「俺も・・・焼きが回ったな・・・・」



思考が遅れた脳が高い声を上げる。
傷の、痛みがない肌に降りているらしい「舌」。
全身を茨で巻き取られせいもあり、その場所の方が少なく、近くの傷がジンジン痛む刺激がキツく、久しく聞いた自分のその吐息はヘタに甘かった。

成す統べなく、細い体に「楔」は深々と差し込まれる。
混乱に痛みは消え、思い出す断片的な記憶さえ瞬時に忘れ、一寸の動きにさえ今は快楽の声を上げる自分は、大分とまいっている様だ。
意識はあるのに、いまだ目が開ける事が出来ず、快楽に脳はすべてを使い切り、本能の吐息が声帯で音を鳴らす。耳にはソルから与えられる音以外、何も分からない。
動かない体を簡単に振り回され、容赦なく先から奥。奥から先まで。大きく、大きく、貪られる。
この男とこんな事をするのは初めてのはずなのに、何だろうかこの既視感は?


救いを求める様に彷徨い上げた手を握られ、上体が引き起こされた。
深々と入り込む圧迫感に声が絞り出される。それを掻き消す様に唇が塞がれ、歯を容易く抉じ開けた舌が優しく入り込む。もう片方の手は、爪を立てる事も出来ず、たくましい胸筋に縋ってしまう。
「ァ・・・」
やっと開放された口から小さな声と露が漏れる。それを熱い舌がそっと舐め上げ、下唇を濡らした。
やはり、知っている。
しかし、重なった思考は、再び快楽へと落とされ続けた。




戻った意識の視線の先で、自分の指が動く事を確認する。
再び水に沈められた体は地の冷たさも重なって、少し硬直している気がする。
明かりを遮って伸びてきた大きな手は、そんな事もお構いなしで腕を引き、無理矢理座らせた。
まだ曖昧な意識と疲労した体を、ソルは胸で受け止め、再び好きなように弄り出す。

といっても、今は傷に触れ、肌を焼いてくという作業。
確かに灯っているが熱くない炎で、血が流れたり、滲んだりしている所を、無理矢理水分を飛ばし、傷を塞いでいくという荒治療。
その合間に首筋を舐められ、声を落としてしまう。
傷から傷へ移動させる指は決して離さず、ゆっくりと肌の上を滑らせる。自然と呼吸は吐息になる。
ズルリと傾いた体を受け止められると視線が合った。
半分閉じた紅い目としっかりとそれを見据えた瞳が近付き、唇が互いの体温を交換する。
「・・・眠れ・・・」


素直に寝息を立てだしたチップの耳を優しく噛む。
慌てて離れるとソルはこめかみを強く押さえ、天を仰いだ。



『また』するつもりか。



植物の化け物を力任せに屠り、チップを引きずり出した時。
粘膜に濡れた全身と肌蹴られた服、小さく開いている唇、すべてが無防備なのに淫靡で。
戦闘の興奮そのまま、本能で喰らい付いた。

粘液の海の中、一度の意識を取り戻す事もなく横たわっているチップは、自分の体液にも穢されても尚、
無垢で艶やかで・・・
芽生えたのは再度の欲情。そして罪悪感と・・・



そっと抱えなおした。

大切なものである様に包んでしまったから。
戸惑いよりも確信の方が大きいから。
それでもいいと思ってしまったから。


どう考えてもそうなのに、いつもの口癖は出てこない。


ただ、寝ている時に手を出すのは止めよう決心した自分が物凄く呪わしかった。




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これこそ女体化触手だろう!?と思ったけど既にほとんど書いてあったのでそのまま。基本野宿は河周辺というのが脳にあって、また河です。膿む=毒性が消えるは嘘。その説明ガッチリ書いたら倍ぐらいの長さになったから端折った。注: 文字用の領域がありません!